「そろそろ、切っとこ(切っておこう)」。ヘアーサロン「hatoha(ハトハ)」(相模原市南区上鶴間本町4)が考案し、販売している胎毛(ファーストヘア)を遊ぶ・飾る・保管するケース「kittoko(キットコ)」(税込1万1000円)は、ことしのグッドデザイン賞に選ばれた。初めての散髪「ファーストヘアカット」ともに理美容業界へ提案し、「一生に一度しかないファーストヘアを、成長の記念として保存する文化を根付かせたい」と取り組んでいる。
代表の遠藤弘貴さんは、受賞について「特許を取得しても類似品が出てくる可能性があり、グッドデザインのブランドが力になる。店頭に類似品と一緒に並んだ時に、一歩前に出ることができる」と話す。
2013年4月に開業した同店は、国道16号沿いに店を構え、近隣の主婦を中心とした女性客が多く訪れる。遠藤さんは3年前に「将来的に美容室だけでは厳しくなるはず」と考え、これまで取りこぼしていたファーストヘアカットをビジネスチャンスと捉えて自社ブランド商品の開発に着手した。
「筆ではなく、ギミックがあるもの」を条件に、知人のグラフィックデザイナー・絵本作家のすぎはら・けいたろう(杉原圭太郎)氏とデザインや試作を重ね、ことし8月に販売に至った。
ファーストヘアは、赤ちゃんが母親のお腹の中にいた時から生えており、羊水などから体を守る役割を果たしている。赤ちゃんの髪の毛が5~6㌢に伸びる(女の子は2~3歳になる)と、理美容師に依頼するか、親などが自宅でカットするケースが多い。ファーストヘアカットを実施している理・美容室でも、胎毛筆を製作する業者に委託するか、カットした髪を袋に入れて渡すなどの対応に留まっている。
遠藤さんは、ファーストヘアカットと「キットコ」の販売を一連のメニューとして提案、販売する新たなビジネスモデルとして構築。これまで「保管」しかなかったファーストヘアに「飾る」という価値を付加し、「全国の理美容業界の新しい選択肢になれば」と期待している。
本体は赤ちゃんの興味を引く、ゆらゆらと揺れるデザイン。本体に衝撃や摩擦に強く傷がつきにくい。木目が目立たない、非常に手触りが良いなどの利点があるハードメープルを使用。北海道の木工所が1点ずつ手作業で1時間ずつかけて角取りや研磨を行う。赤ちゃんが口に含んでも害がないよう、木製食器にも使われる蜜蝋とミネラルオイルで仕上げている。
キットコは本体が収まる専用の桐箱が付いている。子供がゆらして遊べるほか、記念品として祖父母へのお祝い返しにも提案している。同店の店頭やネット通販のほか、理美容用品を扱う販売会社を通じて他の理美容室への販売も行う。
担当した4人の審査員は「髪の毛であれば、家族だけでなく、親族にも共有できるので、祝いごとを飛び越えてだれもが喜ぶ仕組みと愛嬌のあるプロダクトに仕上がっている。また、だれかにプレゼントしたくなるパッケージも完成度が高い」と評価した。
【2021年11月20日号掲載】