【再掲】相模原・若葉台住宅、高齢化率2倍の戸建て団地/住民の有志団体が魅力発信や定住促進へ活動


半数近くが閉店した中心部の商店街=2021年6月撮影

半数近くが閉店した中心部の商店街=2021年6月撮影



若葉台航空 相模原市緑区城山地域の山間に隠れ里のようにたたずむ住宅団地「若葉台住宅」(若葉台1~7丁目)がある。900世帯1200人が暮らすが、高齢化率は全国平均(約28%)を大幅に上回る約6割。2017年3月に住民有志で結成した街づくり団体「若葉台住宅を考える会」は地域の魅力を発信し、住民の定着や若い世代の転入を促すことで少子高齢化に歯止めをかけようと活動を続けている。【2021年6月20日号掲載】

◇住学連携で予約代行

新型コロナウイルスワクチンの集団接種予約を、地域大学生がインターネットで代行する独自の取り組みもそのひとつだ。住民にはパソコンやスマートホンの操作が苦手な高齢者が多く、子供や孫などが身近にいない場合は手続きが困難。電話での予約も可能だが、回線が混んでつながりにくい上、1時間余りで約1万人分の枠が埋まってしまうこともあった。

初めて予約を代行した5月27日は、法政大多摩キャンパス(町田市相原町)の大学生と大学院生ら約10人が協力を申し出た。75歳以上の住民約590人を対象に募集し、事前に希望があった34人全員の予約を約30分で取った。

予約日前日に自治会館で代行希望者を募集し、受付担当の学生2人が申し込んだ人から接種券を預かり、希望する日時と会場を複数記入してもらった。受付時の情報を協力する学生9人に非接触で転送し、自宅などから手続きを行った。

◇環境へのこだわり

若葉台住宅は郊外一戸建て住宅地が望まれていた1970年代に、大手建設業の熊谷組が造成した民間の郊外型個別住宅団地。東京・銀座の集合住宅「中銀カプセルタワービル」や「クアラルンプール新国際空港」(マレーシア)などを手掛けた建築デザイナー・黒川紀章氏(故)がデザインした。

開発当時、県は市街化調整区域の大規模開発の許可基準として「緑化率50%」を設定。若葉台住宅では、周辺や学校裏に大規模な保存緑地を残したほか、住宅の庭先や公園、歩行者専用道路などに造成後の新しい緑地を造成して全体面積の5割以上を確保している。

市立小学校や公民館、郵便局、商店街がある4丁目を囲むように1~3丁目と5~7丁目がある。1丁目と2丁目の間には砥石山公園、3丁目と5丁目の間にカタクリ公園、6丁目と7丁目の間に小栗公園があり、街区を分離して自動車では直接行き来できないようになっている。

橋本・相模原方面や津久井湖を見下ろす立地だが、周囲の国道や県道から住宅団地を見ることはできない。外部から視覚的に遮断されており、車両も地区を通過しないような道路網となっているため、〝隠れ里〟のように閑静な住環境が保たれている。

◇爆発的に進む高齢化

相模原台地を見下ろす高台にあり、近くの城山湖湖畔の公園から関東平野が一望でき、天気のいい日には東京スカイツリー(東京都墨田区)や榛名山(群馬県高崎市)も見える。津久井湖や城山湖などの豊かな自然に囲まれた住環境でありながら、1時間半~2時間ほどかかるが都心への通学・通勤も不可能ではない。76年に入居が始まると30〜40代の世帯が集中的に転入した。

団塊世代(70~80代)に年齢分布が極端に偏っているため、その子供たちが進学や就職、結婚などの機会を迎えると一斉に転出。ピークの90年代には3500人ほどだった人口は減少を続けており、高齢化率も大幅に高くなっていった。

残った高齢者も跡取りが住まなくなった家を売却し、子供の世帯に身を寄せたり、橋本近辺や中央区・南区などの高齢者住宅や施設に入ったりする事例も少なくない。40戸近い空き家があり、行政や民間企業を巻き込んだリノベーションによる再利用などの可能性も検討している。

若葉台住宅のほぼ中央に商店街「若葉台ショッピングセンター」がある。かつては精肉店や鮮魚店、酒販店など12軒が並んでいたが、現在営業するのはわずか3~4軒。住宅兼商店にはかつての店主が住み続けていることに加え、営業許可などの規制もあって空き店舗利用も難しい。

自動車やバスで20~30分をかけても、鮮度がよく品もそろうスーパーマーケットなどに客足が向くようになった。食料品店や衣料品店、ドラッグストア、家電量販店などがそろった商業施設ができたが、運転できない人や足腰が弱い高齢者にとっては不便だ。

◇定住化と若年層転入へ

毎週水曜日には自治会館で朝市を開き、住民が菜園で作った朝採れ野菜を販売するほか、南区古淵の精肉店小川ミートや欧風洋菓子店ヒロセが出張販売している。さがみはら産業創造センター(緑区西橋本)の紹介で三浦半島の鮮魚卸も出店するようになり、生鮮品、総菜、パン・菓子、雑貨などが週替わりで手に入る。多い時で200人前後が集まるまでに定着した。

子育てができる環境、若年層にとっての魅力づくりにも取り組む。地区の子供が通う市立広陵小学校は最盛期には1000人近くいた若葉台地区の子供はわずか50人に減少し、谷ケ原や中沢などから通う子供が多数を占める。

コロナ禍でイベントの中止が続いた昨年は、「地域の子供に、楽しい思い出を残してもらいたい」との思いでポニーとのふれあい事業を実施。ワクチン接種でも連携した法政大の協力で、馬術部が2頭を連れて交流の機会を設けた。子供の親世代の交流にもなり、「同窓会みたいに盛り上がった」(関係者)という。

コロナ禍をきっかけに都市部から郊外の一戸建て住宅が再注目されつつある。テレワークの導入が急速に進み会社に通勤する機会が減る一方、住宅で過ごす時間が増えたことで住環境の質が見直された。同会は「若葉台住宅の良さをアピールすれば、若年層の移住が増えるのでは」と期待する。

近年、わずかだが戸建て住宅を新築して転入する若年世帯もある。庭先を緑化するという造成当時のコンセプトが守られていない住宅もあるが、法律や条例で規制があるわけではない。とはいえ、緑化率5割以上だからこそ守られてきた、自然に囲まれた住宅団地の特徴が失われる可能性もある。

同会の田中潔さんは、マイカーで住宅地を案内しながら「次の50年に魅力ある若葉台住宅を残したい。住宅を新築する人にも緑化を守ってほしいが、決まりや規則だのとうるさければ嫌がられてしまう」と話す。魅力の維持と定住・転入促進は二律背反だ。

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