相模原市内の金券ショップの中でも草分け的な存在であるサガミチケットサービス(中央区中央)の坂間則仁さん(74)。1995年の開業以来、社会状況の移り変わりをにらみながら、消費者のニーズに応える経営を続け、商品券や旅行券、各種チケットなどの割引販売から貴金属の買い取り、衣類や日用品の委託販売、さらには米や地元産野菜の販売に手を広げている。それと並んで、幼い頃からの趣味であり、起業の動機にもなった切手・カード・古銭の収集と販売に変わらぬ意欲を持ち続け、専用の販売スペースを設けているだけでなく、仲間の輪を広げる活動にも取り組んでいる。(編集委員・戸塚忠良/2014年8月1日号掲載)
■郵趣高じ創業
坂間さんは緑区鳥屋の出身で、工業高校卒業後、市内の繊維関係の会社に就職。その後金属加工関連会社で品質管理の業務にたずさわっていたが、「趣味の切手に関係のある仕事をしたい」という思いを募らせ95年に早期退職。同年11月、現在地にサガミチケットサービスを開業した。
開業当時はバブル崩壊後の景気低迷が続く中、消費者の低価格指向が後押ししてくれた。商品券を始めとする金券は店頭に並べればたちまち売れるほど好調だった。テレカとオレンジカード、印紙、高速道路の回数券、航空券ハイウェイカードなどにも人気が集まった。切手・カード・古銭は同じ趣味の人たちとの深い付き合いのきっかけになった。
その反面、まだ仕入れのルートが無かったため商品確保に苦労したが、翌年になると知り合いの伝手などで仕入れの状況が好転した。
■主力商品の変遷
だが、社会の変化が商いを直撃する。携帯電話の普及でテレカの需要は激減し、ETCの導入によりハイウェイカードは廃止となった。ビール券もほとんど姿を消した。追い打ちをかけるように、同業者が増えたため、売り上げは伸び悩むようになった。
「このままでは先細りになるのは避けられない」と考えた坂間さんは、貴金属の取り扱いに乗り出した。家庭で眠っている金とプラチナは意外なほど多く、貴金属の買い取りは大きな反響を呼び、店の主力商品になった。しかし、これも競業他社が増えたため、売上高は横ばいに。
次の目玉商品として着目したのが、委託販売。リサイクル・リユースへの需要の高まりを見越して5年前に着手した。「地域の人たちが物品を通じて交流する拠点になれば」という思いもあり、委託された衣類や工芸品、日用品を販売している。毎日、主婦や男女の高齢者が気軽に足を止めて品定めする姿が見られ、近隣の人たちに重宝されている。
地域との関係を深めるという点では、地元の下溝で栽培された無農薬野菜の販売も始めた。新鮮さと安値で固定客をつかみつつある。このほかにも、新潟米、山形米を店頭に並べ、缶ビールも販売メニューに加えた。
■切手への愛着
しかし、こうした変遷の中で変わらないのは郵趣、つまり趣味の切手・カード・古銭への愛着と、同じ趣味の仲間との交流だ。
若い頃から市内に趣味のサークルを作るために奔走し73年、日本郵趣協会相模原支部の創立に尽力した。それ以来会員との交流と情報交換を深めており、なかには趣味の領域を超えた付き合いに広がった人もいる。
2011年には宿願を果たし、店舗と同じビルの4階に「さがみコレクションワールド」と名付けた郵趣の店を開設した。現在、約100人の会員を数え、気軽に店に足を運んでは坂間さんからの最新情報に耳を傾け、自分の収集品にまつわるエピソードを披露するなどしている。「コレクターの一番大きな楽しみは自慢話をすることなんです。それを喜んで聴くのも趣味仲間の務め」と笑う。
また、名品、珍品や、各地から寄せられるニュース、オークション情報などを満載したオリジナル情報誌を毎月発刊して会員に配布。編集後記に支部の活動報告や自身の近況をつづっている。郵趣は店の礎石と言うべき商品だが、同時に坂間さんの生きがいにもなっている。
「幅広い世代、とくに若い世代の仲間を増やすためにもサガミコレクションワールドの名前を全国に広めたい」というのが目下の夢だ。
■来客は月4千人
サガミチケットサービスへの毎月の来店客はトータルで4千人前後。一件当たりの利益は微々たる額で、同業者間の競合という逆風もあるが、坂間さんは淡々と「薄利多売の商売」と業容を語る。
今後については「商品券の動きは景気のよしあしに左右される。景気が低迷している間は贈答のための利用が振るわなかった。景気がもっと上向きになれば商品券の需要も増えるのではないか」と展望する。売り上げが伸びている野菜、米などは一層の拡大が期待できそうだ。
病院通いに費やす時間もあるが、地域の行事や親しい人たちとの飲み会に参加する機会も多い。「人と人との付き合いが何よりも大切だと思う。これからも同じ趣味の人や地域の人たちと語り合い、酒を酌み交わす生活を楽しみたい」と語る坂間さん。趣味と仕事を一つにした生活を送ろうと心に決めた若い日の思いは、今も生き続けている。