さがみ縦貫道路の開通に伴い、国道129号は同16号並みに重要な産業道路となった。
相模原愛川インターに至近のテクノパイル田名工業団地は、まさにその恩恵を授かるが、国道を挟む反対側は意外にも長閑な田園風景が広がる。そんな中にポツリと佇む事業所が一つ。
「目立つはずだが、通り過ぎてしまう顧客が多い」
ポリウレタンフォーム等を材料としたパッキング材、クッション材、吸音材、断熱材、シール材を加工・販売する相模カラーフォーム工業(相模原市中央区上溝292の1)の甲斐全吉社長は冗談まじりにこう話す。
同社の創業は、周辺に調整区域の網がかかる前の1970年。件の佇まいとなったのはそのためだ。
甲斐社長は四代目だが、創業者や歴代社長の子息でも、生え抜きでもない。
70年代初頭に宮崎県から上京し、東京・練馬で建築物の防水工事会社に就職。その後、傘下の防水工事用部品加工会社の代表に抜擢された。
代表とはいえ雇われの身。2006年、30年余りのキャリアを生かし独立の準備を進めていた矢先に、得意先の一つだった同社の三代目から引き継ぎの誘いを受けた。
「同業ではなかったが、キャリアも生かせるし、事業所・設備の確保や多大な借入金など、独立に伴うリスクを回避できることが何より大きかった」と甲斐社長は振り返る。
前職で経営を主務とし、独立にあたりゼロからのスタートを覚悟していた同社長が幸運の上にあぐらをかくことはない。折しも、長らく基幹としてきた自動車関連の事業は、海外移転や需要減などで転換期を迎えつつあった。
就任早々10年計画を掲げ、設備や在庫材料の整理を通して既存事業の採算性や将来性を個別チェックするとともに、新たな事業の方向性を模索してきた。
改革を進める上で重要なのは、個別製品の需要が減ることはあっても、ポリウレタンフォームや発砲ポリエチレンといった材料そのものの需要が失われるわけではないということ。つまり、今後注力すべきは、材料に新たな付加価値を持たせたOEM製品の提案と自社ブランド製品の開発である。
就任から8年余。まだ自動車関連事業への依存度は高いが、寝装具や雑貨類、建築・土木関連など、他分野の事業も少しずつ広がってきた。そして昨秋、同社初の自社ブランド製品として、機能、環境対策両面で新機軸を盛り込んだコンクリート用目地調整材をリリース。現在は一部の建材店での取り扱いだが、近いうちに、ホームセンター等量販チェーンに納入できるめどもたった。
「量販店納入が実現すれば、とりあえず最初の10年計画の達成率は100%。次なる商品開発、それと多分野での高品質、短納期のOEM提案型営業を積極的に展開したい」
激動の時代だが、中・長期視点で大きな改革を着実に進める甲斐社長の手腕に注目したい。(矢吹 彰/2014年8月1日号掲載)