日本料理 小田原屋、創業115年の老舗守る/全国の郷土料理を探究


自作の絵画を背に神田社長

自作の絵画を背に神田社長

 日本料理は郷土料理の集大成―。創業約115年の日本料理店・小田原屋(相模原市緑区橋本)の3代目・神田達治社長(70)は、明治生まれの祖父に育てられ、厳格な教育を叩き込まれた。日本全国をローカル線(地方の鉄道)で巡る旅を続け、郷土の味覚を味わうことで、日本の食文化の探求を続けている。次の世代へ伝統の味を引き継ぐため、探求の旅は終わらない。 (芹澤 康成/2015年4月1日号)

 ■手間を加える

 神田社長は1944年、現在の相模原市緑区元橋本で生まれた。小学3年のころ、戦地から引き上げてきた父を病気で亡くした。祖父が「おれが頑張るから」と、残された家族の面倒を父の代わりに見ると申し出た。3人兄弟の長男として責任を感じた。

 「祖父は当時60代だったが、明治の男の生き様を垣間見た気がした。さまざまな不安を感じていたので、心の中で強い支えとなった」と振り返る。

 幼少期は、近所の農家の苗床をリング代りに、相撲やプロレスをして遊んだ。「チャンバラもやった。やんちゃだった」と苦笑する。

 小学校のころから家業の手伝いは日課だった。石炭やコークスで沸かした熱湯を使い、鍋や食器を洗う。アルカリ性の強い灰汁を洗剤替わりに使っていたため、「手が洗濯板のように荒れていた」と話す。

 年末になると、一年間の感謝の気持ちを込めてタイの姿焼きを作った。正月に〝お頭付き〟として、得意先へ配る手伝いもした。「ほかから買ったものをそのまま使わず、手間を加えて贈答する。今でも、その考えは継承している」と神田社長。

 ■明大商学部へ

 旭中学校へ通う中学生の頃は、生徒会の副会長を務めた。生徒会の活動に熱中したという。

 家業は母と祖父で切り盛りしていた。長男ということもあり、早く仕事をして家族を養いたいと考えていた。

 しかし、中学で理数系科目が得意だったこともあり、進学を勧められた。将来、家業を継ぐため、八王子市の都立第二商業高校(2010年閉校)へ進学を決意。高校では生徒会長を2期務めた。

 大学進学を決めたのは高校2年の時。進学したいと告げると、祖父が背中を押してくれた。ほとんどの生徒が就職するため、進学クラスがなかった。独学で勉強するほかなく、1年間の留年を余儀なくされた。

 当時、元橋本の店舗の建て替えを行っていた。経済的に余裕がなかったが、戦後の農地改革で得た土地を切り売りして、大学への進学費用に充ててもらった。

 非常に厳格な祖父だったが、教育に深い関心を持っていた。明治時代の生まれだったが、英語の翻訳を得意とした。字が達筆で、地域の人から筆耕を依頼されることもあったという。

 明治大学商学部に入学。当時は学生運動の最中で、構内にバリケードが張られていた。「気持ちの上では、三島由紀夫の〝楯の会〟に共感する部分があった」と振り返る。

 ■27歳で社長へ

 大学卒業後は、東京都国立市内の西武グループ系のスーパーマーケットに就職した。サラリーマンになったが、「行く末は家業を継ぐつもりだった。通勤時間がもったいなく感じた」と、退職理由について触れた。

 小田原屋に入った神田社長は、結婚披露宴の事業を本格化させた。美容師、カメラマンなどを雇い、結婚式のコーディネートを始めた。同店で1日に1~2組が式を挙げることもあったという。

 完全な予約制も導入した。材料の仕入れや人数の手配の計画が立てやすくなり、ロスが少なくなった。

 27歳で社長に就任すると、有限会社の登記をした。時代にあった事業展開を目指し、和風レストランを展開。しかし大手チェーンの出店で、結婚式事業も含めて撤退を避けられなかった。

 最大の苦境はオイルショックだった。約30社あった「接待」の得意先をすべて失った。「1年間を通した営業をどうしようか悩んだ」と話す。

 そこで法要・法事事業を思いついた。当時は内輪で料理を賄い、寿司の出前を取る程度だった。営業も城山や橋本などの寺院や斎場を回り、弁当のケータリングサービスの提案も行った。

 境川の河川改修で、店舗移転を余儀なくされた。閉店も考えたという。しかし「長男が後を継ぎ、長女も手伝うと言ってくれたことが追い風となった」話す。

 ■文化を後世へ

 30年ほど前からローカル線の旅を趣味としている。「日本料理は郷土料理の集大成的な部分がある。同じ食材でも、地方によって異なる使われ方をしている」と強調する。

 神田社長は「日本料理の文化は、まだ形成されていない」と提言する。

 「日本料理を次の世代の人々に知ってもらうために、何をすればよいかが大きな課題。外国の食材をエッセンスとして取り入れてみたい」と、日本の食文化への想いを話していた。  (2015年4月1日号掲載)

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