花や植物を主な素材とする造形アート、フラワーデザインの世界で数々の実績を積み重ねている相模原市上溝出身の伊藤順子さん。公益社団法人日本フラワーデザイナー協会(NFD)名誉本部講師、NFD試験コンクール審査員など第一級の資格を持ち、制作者としてもさまざまなニーズに応えている。今年になって地元での活動に力を入れるため、「地元デビュー」を宣言。早速、市内で行われた祝賀行事で力作を披露したほか、フラワーデザインの愛好者を広げるためのPRと教室運営に努めている。(編集委員・戸塚忠良/2015年6月20日号掲載)
■花・人に出会う
生け花の心得があった伊藤さんは高校卒業後、わが国のフラワーデザインのパイオニア、笠原貞男氏の教室で理論と技術を学び、花の魅力とデザインの奥深さに心をひかれ、関心を深めていった。
「指導してくれるスタッフの優しさと温かさ、立ち居振る舞いの美しさを感じたことも、花の造形に情熱を注ぐ大きな後押しになりました。一緒に学んでいる仲間はフラワーデザインの指導資格試験の合格を目指す人ばかり。本当に真剣で、教室には活気があふれていました。こういう素晴らしい人たちと共に学び、楽しみ、悩み知らぬ間にフラワーデザインとともに四十数年を歩んでいました」と回想する。
自分も熱心に研さんを重ねたことはいうまでもない。努力のかいあって技術は確実に上達し、NFDの資格を取り、結婚。3人の子育ても経験した。
講師として本格的に活躍する場となったのは東京・市ヶ谷にあるカルチャースクールのヴォーグ学園と東京バイオテクノロジー専門学校。「何度か重ねてお話をいただき、講師を務めることにしました。花の世界には流行があり、形やスタイルも変わります。生徒さんに古典と最新のデザイン技法を伝えるために自分でも一生懸命勉強しました」と伊藤さん。
制作については、「大切なのは植物をよく知るということ。植物一本一本に個性があり、その個性を生かす作品を仕上げるには、どこで生育し、日向で成長するのか日陰で育つのか、上へ伸びるのか下に向かって伸びるのか、おのおのを観察し感じることがとても重要です。その知識と構成理論、自分が習得した技術を総合して制作します」と造形観を語る。
■世界展で制作実演
講師、作家としての活動を続ける中で活躍の場は広がり、05年には国際的なイベントの会場で作品する機会を得た。3年に1度の「花のオリンピック」と言われ、世界各国から600点の作品が出品された第8回ワールドフラワーショーで、「和」をテーマにしたデモンストレーション(制作実演)を行い、高い評価を得た。同じ年、世界蘭展日本大賞のステージイベントにも招かれて作品を披露した。
プログラムに英文でプロフィールが掲載されることもあり、「幅広い生徒たちを指導し、フラワーデザイナーとしてのパフォーマンスの中で常に独創性を心掛けている」などと紹介されている。
この前後にはフランス美術館連合と連携する東京・銀座の美術施設で現代フランス風にアレンジした作品を制作。クリスマスツリーの作品展示の要請にも応えた。
NFDが刊行した書籍には伊藤さんの作品が数多く掲載されており、40年にわたり同協会とともに歩んで積み重ねた成果が一般の人たちの目にもふれることになった。「花の造形は生活に潤いと癒しを添えてくれる」というメッセージを込めた作品ぞろいだ。
■相模原を拠点に
活動の一環として相模原市内唯一のNFD公認校、Hana―ism(ハナ・イズム)フローラルアートスクールを主宰し、JR相模原駅近くの園芸店「相武ガーデン」(相模原市中央区相模原)でレッスンしている。資格取得コースをはじめウェディングフラワー、花暦、高校生、ライフスタイルなどさまざまなコースを設け、花の魅力に触れ、デザインする楽しさを伝えている。
ただ、関心を持つ人の数はなかなか伸びないというのが実情。「まだまだPR不足。世代を問わず多くの人に花と親しんでほしい」と、いっそうの普及に強い意欲を燃やす。
地元でのデザイン活動としては今年3月、橋本台に竣工したLCA国際小学校の記念式典のステージを彩るフラワーアレンジとテーブルデコレーションなどの制作を依頼され、ユリ、椿、アイビー、バラ、椿の枝などをアレンジした作品を作って学び舎の完成を祝った。「子供たちが伸びていく、上昇と拡がりのイメージを形にしました」という。
「私にとって花が与えてくれる喜びと癒しはかけがえのないものです。フラワーデザインを通して花の魅力を伝え、人と人の心をつなぐ楽しさをふるさと相模原の人たちに知ってほしいと願っています」。こう語る伊藤さんは培った知識と技術を、指導と作品に結晶させる歩みを続ける。