【社説】神奈川発「量販」の雄、東京品川へ新たな一歩 — ノジマ本社移転の意義を考える


家電量販大手ノジマが、グループ本社機能を東京都港区港南の「品川インターシティC棟」へ移転する。業務開始は2026年2月を予定。本店登記上の所在地(神奈川県相模原市)は維持するが、実質的な経営中枢を東京に置く方針だ。

神奈川を地盤とする同社にとって、今回の決断は単なるオフィス移転ではない。企業の成長段階に応じた戦略転換であり、量販業界の変化を映す動きでもある。

移転先の品川は、羽田空港や新幹線へのアクセスに優れ、国内外の企業が集う首都圏の一大ビジネス拠点である。グループ各社を一体化し、経営判断のスピード化を図る狙いがうかがえる。ノジマは発表の中で「経営の意思決定の迅速化と企業価値の向上を目指す」としており、効率経営と柔軟な組織運営を実現する意志を明確にしている。

家電量販業界は、単なる“モノを売る”時代から、“サービスを提供する”段階へと移りつつある。オンライン販売やDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するなかで、IT、物流、金融、ベンチャーとの連携が不可欠となっている。東京への本社移転は、こうした新領域との接点を広げ、デジタル戦略を加速させる布石といえよう。

一方で、見過ごせないのは地元・神奈川との関係である。ノジマは1959年に相模原市で創業し、長年にわたり地域に根ざした事業を展開してきた。地元密着の姿勢は、同社のブランド価値そのものでもある。移転によって「東京企業」へと印象が変わり、地域貢献や地元雇用への関わりが薄れる懸念もある。

企業が成長のために拠点を移すのは自然な流れだが、同時に「原点」を見失ってはならない。神奈川で培った地域との信頼関係を維持し、相模原・横浜・湘南といった地元経済圏との連携を深め続けることが求められる。たとえば、地場大学や中小企業との共同事業、次世代人材育成などを通じ、地域との絆を再構築する余地は大きい。

本社が東京に移っても、ノジマの「現場」は依然として全国の店舗や顧客のそばにある。量販という業態は、現場の手触りを失えばただの価格競争に陥る。新拠点が、経営のスピードだけでなく、現場との距離をどう保つかが問われる。

品川への移転を機に、ノジマが“地元発全国企業”として次のステージへ飛躍できるか。その鍵は、東京の利点と神奈川の精神をどう融合させるかにある。

地域とともに歩んできた「量販の雄」が、首都圏の新たな地平でどのような企業像を描くのか——。地元発の挑戦として、注視していきたい。

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